「せきせん」と呼ばれる風俗街を知ってますか? 10年ほど前まで、函館には北海道の玄関口にふさわしい風俗街があった。愛想のいいママの店には、若くてカワイイ女のコの笑顔があったのでした。
しかし、今、その場所に残っているのは、黄色いライトが光る工事現場と、雪の中に煌煌と光る街灯。そして、その下に並ぶ静まり返った数軒のスナックだけなんです。
雪の中、足を取られながら過去の楽しかった思い出を胸にその路地を訪れると、ある程度は覚悟していたものの、街の形は無惨というほどに変わっていました。
街が次々と再開発される中で、わずかに取り残された一画に、件のスナックが残っている。いずれも〝あばら家〟と呼ぶにふさわしく、再開発しなくてもそう長くは持ちこたえそうもない外観なのです。
▼再開発の工事現場の向こうに、ぽつんと灯る街灯の下、数軒の店が残っていた。

雪の細道に歩みを進めると、一軒の店のママが声をかけて来たのでその店に入り、女のコの様子を聞いた。
「今はどんなコがいるの?」
「どんなコがいいの? 今はみんな40代以上よ」
ママは正直に応えた。昔との大きな差に驚くおいら。
「ありゃ、もっと若いコがいると思ってたのに。20代はもういないんだ…」
それなら一杯飲ませてもらおうかと思ったその時、ママがスッと今入って来たばかりの戸を開けて言った。
「帰って。遊ばないなら帰って」
これが、遊ぶとも遊ばないとも言っていない、壊滅寸前の風俗街を久しぶりに訪ねた客に対する仕打だろうか? さらに、元旅館風のボロ屋敷にある店では白髪頭の70近いバアさんに、
「ひとりで寝るのは寂しいの」
と、言い寄られる始末。最後の砦と思っていた駅前から松風町に移転した某連れ出しスナックも、3年程前に閉まったままだという。
雪の中、五稜郭方面の繁華街やキャバクラ街をぶらついてみても、収穫はまったく無い。タクシーの運ちゃんも、
「遊べるところは五稜郭にはないですね。駅前もおばちゃんばかりでしょう。函館はソープランドだけですよ」
そう、寂しく教えてくれた。
途方にくれ、駅近くの幾分まともそうなスナックに入り、ママに様子を聞いてみた。すると、
「ここにはもう若いコはいないわよ。ひとりで寝るのが寂しければ電話ちょうだい」
そう言って、お釣りと一緒に店の名前の入ったライターをくれるのだった。
数年ぶりに訪れた懐かしい風俗街は、すでに過去の姿は無く、そして将来もない。この春、雪が溶ける頃には、最後の店もなくなっているかもしれない。
▼賑やかだった2003年頃のせきせん、連れ出しスナック内の写真。